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2008-03-04

月ーまじわる3

僕は月にとらわれないように、
ビルの谷間に隠れている。
その正確な組織力から
どうせ逃れられやしないのに。

僕は
いつも快楽におぼれてしまうから、
その後の月に狙われて、
けれども同じ過ちを
いやになるほど毎日、
犯してばかりいる。

谷間を作る
総ガラス張りの巨大なビルで、
エレベーターが
上下している。
どれも疲れた顔にふくれて、
高さだけなら
今にも月に届きそうなのに
少しも幻想的ではなくて、
どうも最近のエレベーターは、
速さばかりが増している。

最新式のエレベーターは、
入口と出口として
昔からの機械的な運動を
繰り返すだけ。
融通の利かない四角い箱は、
生まれては死んでいくという
同じ遺伝子たちを
吐き出すだけ。

僕はもしかしたら、
月にとらわれてしまいたいのかも
しれない。
こんな沢山の選択肢。
躊躇する間に押し流されて、
ただ年をとっていくなら、
せめて美しい足かせを得て、
あきらめてしまいたいのかもしれない。

theme :
genre : 小説・文学

2008-02-16

お日さまを着た魚10

 お日さまとお月さまは、以前の仲良しに戻
りました。

 湖も、雨が降ったので、すぐにもとの大きさ
になりました。

 けれどもお魚は、体の黒焦げはいえましたが、
まぶたのやけどだけは治りませんでした。

 まぶたを焼かれてしまったお魚は、目を閉
じることができませんので、終始起きていな
くてはならなくなりました。

 明るいものを見ると目がチカチカしてつらい
ので、金細工はできなくなりました。

 お魚は湖の底で、誰も見向きもしないような
コケをつついては、つまらなく過ごすことになり
ました。

 お魚は、またひとりぼっちになりました。

                  おしまい

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-15

お日さまを着た魚9

 石はお日さまの涙のかけらだったのです。
お日さまとお魚の涙をあわせて、ようやく
衣が出来上がったのでした。

 お日さまはずいぶん丁寧に衣を作ったので、
もう衣が湖の水にとけるようなことはありま
せんでした。

 お日さまは、前よりずっと大きく立派になった
ようでした。

 お月さまは、久しぶりにお日さまに会えた
のがあんまりうれしかったものですから、今
までのうらみごともすっかり忘れてしまいま
した。

 お日さまも、お月さまにようやくお礼が言える
のがうれしくて、お月さまにかけよりました。

 お日さまは、
「さんざん泣きつかれていたのに、まだまだ泣ける
ものだね」
と、言いました。

 お月さまも、
「僕も、ベッドで眠ることばかり考えていた
けれど、まだまだこんなに涙をしぼり出す元気が
あまっていたみたいだよ」
と、答えました。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-14

マホガニーの椅子ーまじわる2

僕の心をつかむのは、
もはや重力ばかり。
使い古して
ぶよぶよと伸びてしまった僕の心は、
強引な地球の重みに、
だらしなく引きずられている。

マホガニーの椅子も、
年を重ねて
油をはらんで、
このところはがたがたと不安定で、
もう芽吹くこともないだろう。

お互いに大きさばかり
はやるけれども
どうにもお役目を果たせそうにない
宙ぶらりんな感じ。

もう決して
世の中に向けて奮い立つことは
なくなってしまったとしても
思えばこのマホガニーの椅子の上で
いろいろな人が、
時を過ごした。

マホガニーの椅子と僕の心は、
年はとったけれども、
ずいぶんとやすりで擦られた
そこばかりは
すべらかに若やいで、
いまさらなにを求めるでもなく、
やわらかく
ぬくもっている。

theme :
genre : 小説・文学

2008-02-13

お日さまを着た魚8

 そこでお月さまは、石をお魚にやりました。

 お魚は、品定めをするために、お月さま
の光に石をかざしました。

 と、突然、お月さまの光をあびて、石は
はげしく光りました。そのためお魚は、一瞬
のうちに黒焦げになってしまいました。お魚
は、お日さまの水あめの衣をまとっていた
せいで、焦げやすくなっていたのでした。

 お魚は、痛さのあまり、湖の底に逃げ帰り
ました。湖の底でお魚は、お月様にもらった
石を小さな胸に抱いて、ボロボロ涙をこぼし
ました。

 すると、なんとしたことでしょう。涙のかけら
が急にむくむくと大きくなったかと思うと、湖
の水がもうもうと沸き立ちました。そして、
たちのぼる湯気の間から突如、強い光がさし
ました。

 それは、湖の底にすっくと立つ、お日さま
の光でした。

 湖の水はお日さまの放つ熱で、一瞬のうち
に干上がってしまいました。湖は、水たまりに
なりました。

 お魚は、その水たまりのかたすみで、
ふるえているしか、ありませんでした。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-12

お日さまを着た魚7

 それからまた、数週間がたちました。

 お月さまはこのところ、やせていく一方で
した。

 お魚は、お月さまに栄養を与えて太らせな
くては、と考えました。せっかく毎日お空に
出ていても、こんなにやせてしまったのでは、
商売にならないからです。

 ちょうどお日さまの家で、月下美人の花が
大きな果実になったので、お魚はそれをも
いで、お月さまにあげました。

 お月さまは、おなかはすいていませんで
した。が、お魚があんまり親切そうにすすめ
るので、ようやくその実を口にしました。

すると、白い果肉の中に、なにやら歯にあ
たるものがありました。それは、小さな丸い
石でした。

 お魚は一目でその石が気に入ったので、
「それは、なんてことのない石です。お月
さまが持つようなものではありませんから、
私にください」
と言いました。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-11

お日さまを着た魚6

 お月さまはお日さまの家のドアをドンドン
たたいて、
「この怠け者。君なんて友達じゃない」
と言いました。

 そうしてお月さまはまた、お空に帰ってい
きました。

 お日さまは、やさしいお月さまがそんな
ことを言うなんて、思いもよりませんでした。

 お日さまは決して、怠け者ではありません
でした。早く衣を作り上げたくて、ご飯も食べ
ず一日中泣いていたのです。

 一日中泣いているというのも、結構大変
なことでした。

 お日さまは泣きじゃくりながら、窓から身
を乗り出して、お月さまに手をふりました。
お月さまの誤解を解きたかったのです。

 けれどもお月さまは、お日さまには目を
くれようともしませんでした。

 窓の下には、月下美人の大きな花が、
お月さまに照らされていました。

 お日さまの涙は花の中に、ぽたりぽたり
と落ちました。花は、お日さまの涙が重かった
ので、早々に閉じてしまいました。

 そしてお日さまは、月下美人の花弁が
閉じるのと同時に、つかれと悲しみのせいで、
消えてしまいました。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-10

お日さまを着た魚5

 お月さまは、最初は、お魚の言うことなんて
信じませんでした。

 けれどもお魚はこりずに、毎日毎日お月さま
に、おんなじことを言いました。ですからお月
さまは、だんだんお日さまのことを疑いはじめ
ていました。

 お月さまはとにかくつかれていたのです。

 ある夜、お魚は言いました。
「お月さまの秘密を私は、知っていますよ。た
まにお星さまをとってきて、食べているでしょう。
お日さまが、私に教えてくれましたよ」。

 もちろんお日さまがお魚に告げ口したわけで
はありません。お月さまたちが内緒話をしてい
るのを、お魚は盗み聞きしていたのです。

 けれどもお月さまは、お日さまが秘密を守ら
なかったのだと勘違いして、おこりだしました。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-09

お日さまを着た魚4

 次の日もその次の日も、お日さまはめそめ
そ泣いて暮らしました。

 けれどもお日さまは、ただ悲しいから泣いて
いるのではありません。お日さまの衣をつくる
ためには涙のかけらが必要なのです。

 涙のかけらをたくさん集めて、大きな釜でぐ
らぐらと丁寧に煮詰めていくと、そのうち熱い
水あめになります。そしてそれが固まると、黄
金色に輝くお日さまの衣になるのです。

 お日さまの衣は、もとが涙のかけらですから、
水につければとけてしまうのはあたりまえなの
でした。

 そうして数週間がたちました。お魚は、毎日
金を集めることができて、大喜びでした。

 そんなある日、お魚はお月さまに、こんなう
そをつきました。
「お日さまは、毎日遊んで暮らしていますよ。
この間私のところに来て、お月さまの悪口を言っ
ていましたよ」。

 お魚は以前から、お月さまとお日さまの仲が
良いのをねたんでいたのです。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

2008-02-08

お日さまを着た魚3

 驚いたのは、お日さまです。朝起きて窓か
ら手を伸ばすと、衣がなくなっているのです
から。

 お日さまは、泣き出しました。衣がないと
お日さまは、お仕事ができないのです。そ
れどころか、お日さまはまるはだか。お外
に出ることさえできません。

 お日さまが泣いていると、そこへお月さま
がやってきました。お月さまとお日さまは、
仕事帰りにお互いを起こしあうことにしていた
のです。

 お月さまはいつものように、お日さまの家の
ドアをノックしました。

 そこでお日さまは、こう言いました。
「衣がなくなってしまったんだ。わるいけれど君、
衣が出来るまで、僕の代わりに仕事をしてくれないか」。
 お月さまは、
「よしきた」
と答えて、またお空に戻っていきました。

theme : 自作小説
genre : 小説・文学

プロフィール

成川 鰈

Author:成川 鰈
砂底に生息。
蝶にあこがれるも、わが身は重く。
体の厚みは鰈というよりむしろパグ犬。

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